第三章 〜理由〜

 

光が体を包みこむ。

暖かくて優しい光。

僕を迎えに来たって、あの人は一体何者なんだろう・・・。

争いが起こるってなんなんだろう。

何も分からない。

誰か、教えてよ・・・・。

 

 

「気がついたかい?」

ふと、優しい声がしてリョウは目を開けた。

目の前にはあの老婆の優しい顔がある。

そうだ・・・僕はこの人に・・・・。

「は、はい・・・ってここは!?」

辺りをきょろきょろ見渡す。

・・・町のようだ。

と、いうかリョウはこの風景を知っている。

ここは・・・

「セルビスだよ。あんたも来たことがあるだろ?」

そうだ、港町セルビス。

リョウが住んでいる村から東にある町だ。

ちなみに徒歩3日、馬車で2日かかる。

「あんたがあの村にいるのはちょっと危険だったからね。まぁ、ここが一番近かったからね。」

ここに送ったまでさ、と老婆は続ける。

「はぁ・・・、あの危険ってどういう意味ですか?」

リョウとしてみれば、突然危険だからと言われてここに連れてこられたわけで何がなんだか

よく分からない。

確かにあの地震は変だったけど、それならばあの村の人皆が危険なのでは・・?

リョウの脳裏に村の人々の顔が浮かんだ。

「言ったろ。追っ手が来ていたんだよ。

いや、追っ手というより奴が時だと知って動き出したと言った方が正しいだろうね。」


・・追っ手。さっきもその言葉を使った。追っ手が来ている、危険だ・・と。

「大丈夫だよ。奴はちゃんと処分した。」

 ?

「狙いはあんただよ。リョウ。」

険しい目で老婆は見つめる。

「・・・僕!? 何で!!」

頭が混乱してきた。

リョウは老婆を食い入るように見つめる。

「あんたが争いを止めるためのコマの1つだからさ。」

当たり前のように老婆は続ける。

「そして、奴はあんたの村の村長に寄生して時が来たらあんたを殺すつもりだったのさ。」

「寄生!? 村長に!?」

あんたには話しておかなければいけないね、と老婆は話始めた。

今、世界に何が起こっているのか・・・。

 

 

 

 

 

600年前、人々は自然と共有する術を見つけた。

一部の人間は自然に心があることを知っていた。

そして、自然と心を通わせた人々は並ならぬ力を得た。

普通の人間が決して持たぬ力・・・。

力の種類は人それぞれだ。

空を飛ぶことが出来る者、動物と話が出来る者、種類もさまざまなら力の強さもさまざま・・・。

現在でも力を持つものはいる。

600年前自然と心を通わせた人々の末裔だ。

現在では「超能力者」と呼ばれている・・・。

 

自然と心を通わせる・・・それは見えないものも見えるようになるという事を意味していた。

そして本来ならば、あるはずもない物が人間の世界に影響を与える事になってしまった。

 

「それが、邪気だよ。」

老婆は真っ直ぐにリョウを見て言う。

「邪気・・・?」

 

邪気とは人間の心の醜い部分が意思を持ったものだ。

本来ならば人間の心に醜い心が生まれたとしても、それは時がたてば人間の心の中で消されてしまう。

残ったとしても、その人の心の一部として残るだけだ。

しかし自然と心通わせる方法、人間が本来接触するはずのない領域に入ったとき世界のバランスにズレが生じたのだ。

人の心の中に残り、やがては消えていくはずの醜い心はバランスが崩れたことによって暴走し人間の体から飛び出し

意思を持ったのだ。

 

「僕たちの醜い心・・・怒りとか、憎しみとか?」

「そう、その他で言うとに悲しみとかだね。つまりは人間が当たり前に持っているマイナスの感情さ。」

 

なんとなく・・・分かった。

でも、それが争いとどんな関係があるんだろう。

リョウが頷くと老婆は話を続けた。

 

「暴走した邪気を支配する存在が現れたんだ。それも一つの邪気の塊だが。

しかし、とてつもなく大きな力を持つ邪気の塊さ。どれだけの人間の負の感情が集まってできたのか・・。

そいつが今、人間を滅ぼそうと動き始めたんだよ。」

 

「じゃあ、争いの相手って・・・。」

「そう、そいつさ。私たちはそいつの事をZEROと呼んでいる。無にかえす・・という意味でね。」

 

まるで夢物語の話だ・・。

もし、その話が本当ならば大変なことだ。

でも・・・。

 

「でも、相手が人間の負の感情を元に出来てるのなら、どうやって倒せば・・。」

 

問題はそこだ。

相手が負の感情を元に存在しているのならば、倒すことはできない。

人間の負の感情は、生きていれば自然に生み出されるものでありその感情が生まれるのは、

ごく当たり前のことだから。

それを無くせというのならば、人間は生きてはいけないかもしれない・・。

誰だって怒り、悲しみ、時には相手を憎んで・・・そうやって生きているんだから。

 

「そう、だが、手はある。一度崩れたバランスを元に戻せばいいんだよ。・・というか、バランスによって暴走した邪気・・すなわちZEROを止めればいいのさ。」

 

「そんな事出来るんですか!? だったらすぐに!!」

そう言いかけて、リョウは言葉を切った。さっき老婆はリョウの事をコマだと言った。

争いを止めるためのコマ・・・。

ということは。

 

「まさか・・・僕がやるんですか? 争いを止める為のコマって・・・」

老婆は微笑んで彼を見つめている。

「私らが出来るんだったらやってもいいんだがね・・。

だが、世の中そんなに上手くは出来てないみたいだ・・。

あんたは選ばれたんだよ、リョウ。争いを止める歯車として」

老婆はリョウをじっと見つめる。

リョウは俯いていた。

突然世界を救えと言われたようなものだ。

正直、関わりたくないのが心情だ。

と、いうかどうして僕なのだろう。

そう、どうして僕が・・・。

問いかけがぐるぐる回る。

何故僕なんだろう。

僕は、ただ村で平和に暮らしていたかったのに・・。

何故僕が・・・・。他の人では駄目なのか?

命に関わる危険もきっとある、いや、そのような危険がほとんどだろう。

ろくに戦闘経験もない自分が立ち向かっていけるのか・・・。

そうだ、きっと誰か別の人が・・・っ!

きっと僕が断れば別の人が!

 

そう思ってリョウは反射的に老婆の顔を見た。

しかし老婆は何も言わなかった。

ただ、穏やかな表情でリョウの顔を見ていた。

リョウが決断をするのを待っていた。

 

その瞬間、リョウは自分しかいないのだと悟った。

このことを他の人に押し付ける事は出来ないのだと。

自分が断ればおそらくZEROによって人間は消滅するのだ。

何故僕が・・・・?

どうして・・・?

だけど、答えは・・・一つしかない。

 

選ばれた・・・その言葉がリョウにズシンとのしかかる。

まだ、頭が整理できてない・・。頭の中に一気に入れられた情報がぐるぐると回る。

でも・・・。

僕がやらなければいけないという事だけは分かった・・・。

道は・・・それしかないのだ。

リョウは顔を上げて真っ直ぐに老婆を見た。

その表情は強張っており、自分の服の袖をぎゅっと握る。

暫く間を置いた後、リョウは老婆に向かって頷いた。

 

 

 

「・・・・・・・・やります。」

 

 

 

 

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